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アバターカウンセリングと多様なカウンセリングの可能性 - 悩み相談と心の対話の場所 | NPO法人東京メンタルヘルス・スクエア

東京メンタルヘルス・スクエアblog

アバターカウンセリングと多様なカウンセリングの可能性

カテゴリ: 私たち(TMS)の活動 作成日:2023年10月13日(金)

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夏休み明けの子どもたちの苦しみ

夏休み明けの8月下旬から9月にかけて子どもたちがいろいろな思いを抱えて悩んでいると言われています。

私たちが実施するSNS相談「こころのほっとチャット」でも8月には、10代の方からの相談が増加する傾向があります。 

私たちは苦しい思いを抱えている10代の子どもたちの気持ちを聞くことで、少しでも楽になってもらいたいと思い、従来のSNS相談、電話相談だけではない方法はないかと考えました。

アバター相談の検討 

SNS相談は顔も名前も出さない匿名で相談ができ、しかも普段から利用しているスマホがあれば可能であることから多くの子どもたちに利用していただいています。その一方で「チャットだと相談に時間がかかりすぎる」「文字だけでは思ったことと違う意味で伝わることがある」というデメリットも指摘されています。 

6月下旬から事務局内で何回も話し合った結果、アバターでの相談であれば、顔は出さずに声による相談が可能なので、「匿名性の確保」と「肉声の対話によるより深いカウンセリングの実現」の双方を成立できるのではないかと考え、準備を進めました。

当初はメタバース空間でのカウンセリングを想定し、ご協力を申し出てくださった企業と打合せとテストを重ねました。

しかし、この方法だと子ども(特に小学生を想定)に新規のアプリのインストールをお願いしなくてはいけないことがネックになりました。子どもが勝手にアプリをインストールしないように制限しているケースが多いと想定されるため、新規インストールありきの方法は見送らざるを得ませんでした。

検討を進めた結果、選んだのがZoomのアバター機能です。

・コロナ自粛の間に多くの小中学校、高校がZoomをコミュニケーション手段として活用していたこと(使える小中学生も多いのでは?)

・ブラウザベースでも利用可能なため、必ずしもアプリのインストールが必要ではないこと

・ご相談者様側にはネット接続料以外のコストがかからないこと

と想定したことが決定した大きな理由です。

同一のアカウントでも、ブレイクアウトルーム機能を使用することで同一時間帯に多数のカウンセリングを同時に実施できることも大きなメリットでした。また、Zoomのアバターは日々改良されており、口の動きや表情もかなりリアルに再現してくれるようになっている点もカウンセリング向きだと考えました。

アバター相談当日

カレンダーとにらめっこをしながら、「こどもアバター相談」の開催日を8月30日(水)から9月3日(日)の5日間の12:00〜22:00としました。

今年の日並びでは9月1日が金曜日となり、1日学校に行き(もしくは休み)そのまままた2日間休みの上で、4日から通常の学校が開始になることからこの日程としました。

事務局内では何度もリハーサルを実施、参加するカウンセラーにもアバターの作り方やZoomの操作方法などのレクチャーを重ね、延べ100人分のカウンセリングを実施できる準備を整えて8月30を迎えました。

5日間の実施の結果、相談に来てくれた子どもたちは当初の想定を大幅に下回る人数でした。また、せっかく「アバター相談」に来てくれたのに、「チャットで相談したい」「アバターではなく、画面表示を切ってお話ししたい」という子どもも複数。私たちが想定していたことと違う事実があるようでした。

5日間の「アバター相談」終了後の事務局内の振り返りで、「悩むより、子どもたちの意見を聞こう!!」ということになり、SNS相談のLINEに登録してくださっている10代の子どもたちにアンケートの協力をお願いすることにしました。

アバター相談アンケートの結果より

「みなさんにより使いやすい相談を準備するために意見を聞かせてください」という説明でアンケートの協力をお願いしたところ、1週間のうちに345人もの回答をいただくことができました。

同じ母集団に声をかけたのに、アバター相談には来なかったけれど、悩み相談には興味を持っているこどもたちが相当数いることを改めて認識しました。

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結果から大きな反省は、66%もの人がアバターカウンセリングを実施していることを知らなかったということです。

実は、あまり大勢の子どもたちが来すぎても相談に応じることができないと考えて、周知を1週間前からの開始にしていました。この点は見通しが甘すぎたと大反省です。

次に、「Zoomがインストールされていない」が実に半数もいること、そしてZoomに慣れてないという声も多数いらっしゃいました。コロナ禍の間、多くの学校がZoomによるコミュニケーションを実施していたため、子どもたちも使えるようになっていると思ってしまったことが大きな判断ミス。私の子どももクラスミーティングに使用していましたが、使っていた機材は、子どものスマホではなく、私のパソコン。しかもセッティングは全部私がしていました。後日小学校の元校長先生にもヒアリングしましたが、子ども自身がZoomを使用できる人はほんの一握りとのことでした。事前にもっと調査していれば分かったことなのに、猛反省です。

そして何より大きな気づきが、対話よりチャットの方が良い48%と、回答のほぼ半数です。LINE相談に登録している子どもたちにアンケート協力を依頼したのでチャットに意見が寄る傾向があることを配慮しなくてはいけないですが、それでも想像よりも多い数値です。

長年SNSカウンセリングと電話カウンセリングの双方を実施してきているので、子どもたちが電話(対話)ではなく、文字でのコミュニケーションを好むことは気が付いていたのですが、ここまでの高い比率だったとは改めての驚きでした。

【アバターカウンセリングを使用しなかった理由:自由記載欄】

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アバターカウンセリングを使用しなかった理由の設問には、選択肢以外に自由記載欄を準備しておきました。そこへの記載でとても多かったのが「家で声を出して相談できない。親にばれる」という種類の回答です。

SNS相談の大きな利点に「声を出さずに相談できる」ことがあることは以前から指摘されているところですが、子どもたちからの生の声を聴いて、改めて若年者(自分のプライベート空間を確保できていない層)の「声を出さない相談」の必要性を痛感しました。

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最後の質問が、これから使ってみたいカウンセリングの方法です。

LINE相談登録者なので当然の結果ですが、圧倒的多数の80%がSNS相談でした。次いで多かったのがメール相談の57%。メールは長文が書ける代わりに、リアルタイムでの対話性が低くなるため、子どもたちは好まないかと想像していたのですが半数以上が希望しているということは貴重な情報でした。

ここまでの2つが、文字中心のコミュニケーション。

20%前後で続いたのが「電話相談」「アバター相談」「メタバース相談」の3つ。

私たちが実施している電話相談「こころのほっとライン」の子どもたちの利用はとても少ないのですが、チャイルドラインさんなど、昔から子ども対象の電話相談をしている団体は多く、やはり今でも一定数は電話相談を希望する子どもがいるようです。そして、今回取り組んだ「アバター相談」、そして、かなり近い世界の「メタバース相談」にも2割の子どもたちが利用してみたいと言っていることを改めて知ることができました。

「アバター相談」も「メタバース相談」もまだまだ新しい取り組みで、認知度は決して高いとは言えません。そんな中での2割の子どもが希望するということはまだまだ今後のニーズがあるのではないかと感じています。

顔出しなし、名乗り無しでプライバシーを守ったうえで、対話形式でのコミュニケーション。ある意味ではドライに聞こえる部分があるかもしれません。でも、人に言えない悩みを抱えることは誰しもあること。

そんな時に自分の素性を明かさないからこそ話せる本音もあるのではないかと思います。人と人との触れ合いを大切にしながら、その上で、最新のテクノロジーを活用することで柔軟に寄り添うカウンセリングが実現できるのではないかと思っています。

これからも時代の変化に合わせて、その時その時に合った「安心して相談できる居場所」を作っていきたいと思います。

事務局長